口も八丁、手も八丁とは、人をけなす時に使うことが多いが、福祉の職に携わるものにとって、これほど強い武器はない。いや、むしろ、介護のくだらない資格を取るより、こうした技術を学んだ方がいいだろう。

つまり、腕も立ち、しゃべることもやることも達者でなければいけない。口先の大事なコミュニケーション能力こそ、この仕事には欠かせない。

介護現場のコミュニケーション技法において、あまり話をしない方がいいことがある。それは「野球の話、政治の話、宗教の話」だ。想像はつくと思うが、そのことで相手を平気で傷つけ、場合によっては対立することがあるからである。感情移入している話はあまりしない方が賢明だ。

認知症の方への対応についても、プラス的な言葉を取り入れることで、気分も良くなってくる。「今日はいい天気で気持ちがいいですね」「なんか顔色がとってもいいですね」「あのテレビに映っている料理美味しそうですね」そんな感じで十分だ。

話が困ったら、自分の話をしちゃえばいい。「昨日、鮨屋に行って美味しいマグロを食べましたよ」と、遭ったことを普通に話たっていい。大事なことは、会話の中身より、継続することだ。そして、更にひっぱることが大事なんだ。「○○さんはマグロ好きですか？」「大トロ、中トロ、赤身どれが好き？」「寿司ネタは何が好き？」「美味しい店はありますか？」「焼津漁港にマグロが・・」「焼津に黒潮温泉が・・」「温泉好きですか？」と、どんどん会話の中身を広げていくことが大事なんだ。

別に嘘でも構わない。そんな許せる嘘から新しい発見を見出すことができば成果は十分だ。
聴いた話も、特別覚える必要もないものなら、サラッと流していい。ポイントを整理して覚えておけばそれで十分なんだ。

こんな口先だけだと、一見いい加減に思われるかもしれないが、まともに話を聞いて真剣に返していたら、多くの人と関わることなんてできやしない。ある程度のいい加減さがないと、自分がつぶれてしまう。それが本当に許されるものかを精査して、一部を保管し、他はどんどん捨てていけばいいのだ。

そうした会話の連続技、聞き流しのテクニックは、ホストやホステスから学ぶのが本当はいい。「仕事、趣味、嗜好」など、ポイントを絞って暗記し、会話の中身を広げていく。相手の投げたボールに合わせて、自分の引き出しから、それに見合ったボールを投げ返す。その引き出しの多さこそ、口八丁を導き出してくれる。新聞を読むことも、そうした引き出しを広げる大きな武器となるだろう。

本来、野球の話はあまりしない方がいいのだが、仮に「俺、巨人ファンなんです」と、阪神ファンのお爺ちゃんに言ったとしよう。当然気分が悪くなるだろう。その時のお爺ちゃんの表情を見て、咄嗟に、「昔は阪神ファンだったけどね・・」と、平気で嘘をつけれるかつけれないかで、関係性は大きく変わってくるのだ。

嘘はついてはいけないが、そんな些細な嘘を利用して、相手との距離を縮めることができるのである。もちろん、一歩間違えると、余計に距離が広がる可能性もあるがな。

俺は馬鹿みたいにオーバーにリアクションする時もあれば、根暗に振る舞う時もある。コミュニケーションは、言語的コミュニケーションと、非言語的コミュニケーションがあり、そこで重要になるのは、非言語的コミュニケーション、つまり身振りや手ぶり、表情や空間、オーラが必要になる。その両者を上手に組み合わすことができないと、福祉の仕事はできやしない。

一対一で話をする時は、静かに安心して話せる空間を作り、掬するように発する言葉や表情を絶対に逃さない。そして、あまり刺激を与えないような自分なりの解答を瞬時に導き出し、優しくささやくように伝えていく。その場で答えを出さないことも一つの技であろう。

また、集団の場合、レクリエーションをする時は、馬鹿みたいに大きな声で、相手を楽しませる。芸人みたいにギャグも交えながらも、目だけは誰がどういう状況かを確認していく。そして、どうすれば楽しんでもらえるかを想定しながら、次のレクへと結び付けていく。時に強く、時に静かに、声に強弱を、そしてオーバーアクションで行うことが望ましい。時間は1時間以内、そんなに長くやらないところがミソなのだ。

つまり、個人であれば聴く力、助言する力、そして集団であれば、盛り上げる力、落ち着かせる力が必要不可欠である。口八丁、手八丁の技を身につけて、ある程度のいい加減さ、世渡り上手なところがないと、この業界で生きていくには大変だと思っている。

彼女に浮気がバレた時、一瞬につける言い訳こそ、最大の武器であるのだ。
・・・・あまり説得力ねぇな。