よりみち

 この“よりみち”は、家長:石津が勝手に、ウンチクを語ることで、「こんな馬鹿な男もいるんだ」と、皆さんに生きる勇気を与える為の文章を載せています。  尚、内容に関しての苦情、反論、哀れみなどはご遠慮ください。強がっているわりには、打たれ弱い性格なので・・。また「憩の家みち」とは何ら関係なく、あくまで個人的主張であることを重ねてご理解ください。

よりみち

粋な介護を目指せ!


寿司屋のカウンターで食べるって、やっぱり憧れるよね。俺も40代になってから、ようやくチョイチョイ行くようになったけど、粋な食べ方ってやっぱりあるよな。最初は、お酒で清めながら、旬な白身魚や光物など淡泊なものから始まって、少しずつ味の濃いもの、そして巻物で〆る。箸で食べちゃダメだよな。まぁ、昔みたいにお茶で手を洗いながらとは言わないけど、やっぱり手で優しくもって、シャリがホロッと砕け落ちる瞬間を堪能する。

たまに、中途半端な金持ちの若造が来て、いきなり「大トロとウニくれる?」って、ふざけんなこの野郎、うらやましいぞ・・、いや、格好悪いぞって言いたくなるもんな。まぁ、そういう俺も、親方に散々絡んで、しまいにゃ、若い衆に抱えられてタクシーに詰め込まれて、毎回のように強制送還だぜ・・・・・こっちの方がダメだわな。

でも、今の介護の業界もそうだけど、本当に粋な奴らがいなくなったなってつくづく思う。
自分のことばかり考えている、上っ面だけのお調子者が増えたと思う。

俺は肉体労働の期間が長かったからだと思うけど、土方や鳶職って、常に汚いし、きついし、辛いことはあるけれど、それなりにプライド持ってやっているんだよね。この介護の仕事だって、俺は同じだと思うんだ。

ニッカポッカ穿いて泥まみれになると同じように、俺達はジャージで便まみれになりながらも、自分達のプライドの為に働いているんだよ。「何とかやってやろう」という心意気がそこにある。汗水流した分だけそこに感動があるからこそ、辛くても踏ん張ったりできる。共に苦労した仲間がいるからこそ、団結力が深まるんだよね。

それが、最近この業界が忘れかけている心意気、「介護の粋」なんだよね。

最近じゃ、ITベンチャーかぶれした、ホワイトカラー連中が増えてしまい、役所の連中もそんな3Kを払拭するのに躍起になっている。本当にくだらないと思う。お前たちのプライドは一体どこに行ったのかと疑問で仕方ない。施設長や相談員だって、いくら事務処理が多いにしても、そんなにスーツでいる必要性はないし、何かにつけて現場に入ってない証拠なんだよね。

たしかに、俺の考え方は古いから、最近の介護施設は違っているかもしれないけれど、俺がネクタイを付けるときは利用者が亡くなった葬儀位で、あとはジャージで十分だ。それが、経営者として相談員として、現場を愛する心意気ってもんなんだ。
サービス化したのはすべて悪いとは言わない。でも、大切にしなければいけないのは、各々が誰にも負けない強い福祉魂を持つことであり、それをあえて表に出すことでなく、ちょっとさりげなく、控えめに、実践で証明すべきことなんだと俺は信じている。

俺が学生のころ、ブルーハーツが教えてくれた。「決して負けない強い力を、僕は一つだけもつ」、それこそ、俺達の福祉魂なんだ。粋な介護こそ、俺達の美学なんだと思っている。

そうだなぁ、もう少し人生経験を積んだら、蕎麦屋で日本酒を飲むことが、次の俺のステップかな。

全然関係ないけれど、昔、俺の先輩が、男の浮気について、飲みながら話したことがあって、「いいか石津。男ってな、やっぱり浮気は必要なんだよ。例えば、うちのかみさんがラーメン屋だったとするだろ。でもよ、毎日ラーメンやチャーハンばっかり食べたって飽きるじゃねぇか。そりゃ、たまには寿司とかウナギだって喰いたいじゃないか。それでいいんだよ。でもな、一番大事なのことは、そんな美味いものを喰いながらも、『あっ、やっぱり俺はラーメンが一番好きなんだなっ』て、思うことが大切なんだ。それを踏まえたうえで、有難く頂くことが大切なんだよ。なぁ、石津、お前にはわかるか?」って、懇々と説教されたっけ。

でも、その後、俺もその先輩の奥さんのことを知ってるもんだから、つい、「先輩そんなこと言ってましたよ」って、密告したんだ。その夜の先輩の家、大爆笑だった。まず、先輩が家に帰ると、奥さんは、「お帰りなさい」じゃなく、「いらっしゃいません」だって。先輩焦ったろうに。それから、嫌みったらしく、「今日のご飯はラーメンでいい?チャーハンにする?」「ごめんなさいね。ラーメン屋で」「せめて割烹料理の女将にしてほしかったわ」だってさ。先輩はすぐに、「石津の野郎〜」って、腹が煮えくり返ったらしいけど、それもできずに、しばらく下を向いて謝るだけだったらしい。

「男ってこれだから嫌ね」って、奥さん呆れてたっけ・・。

でもさ、この流れって、奥様本当に「粋」だなって思う。普通そんなこと言ったら、ぶっ飛ばされるけど、それを嫌みという笑いで返しちゃうんだもんね。奥様の方が何枚も上手だね。

この介護の業界も、利益主導型福祉が蔓延しつつあり、それを目指す若者が増えて、肝心な魂が欠けているやつが本当に多い。俺は危機的状況だと感じている。

たしかに、俺も金持ちが羨ましいと思うけど、金持ちになりたいとは思わない。喰って飲んで寝るところだけあればそれでいい。福祉に携わる奴らは、そんな金持ちになりたいという貪欲じゃダメなんだよ。それこそ、職人と一緒なんた。熱い魂だけで、もってるようなもんなんだ。本当にこの業界に不足している人材とは、そんな「強がり」と言われるほどの、本物の馬鹿がいなくなったことなんだよね。

俺は貧乏社長だが、常に粋な経営をしたいと思う。亡くなった人にお金を請求することなんてしないし、利用料が払えなければもらうこともない。払えるようになったらくれればそれでいい。もちろん、法人あってのことではあるけど、「てやんでぇ、ばかやろう精神」みたいなものがないと、やっぱり福祉人とは言えないんじゃないかな。

俺達は今こそ、「介護の粋」について、考えるべきなんだと思う。

でも、うちの税理士の先生は本当にすごいぜ。俺がここを立ち上げる前、真剣に相談にのってくれて、「石津さん。俺は応援するから大丈夫だよ。報酬?そんなもんいらないよ。利益がでた時に、初めてくれればそれでいいからっさ」って言ってくれた。

俺は、この人って本当に「粋」だなって思ったもんな。その時、「やっぱり神様っているんだな」って心から感謝したっけ。

・・・・でも、あれから10年。今じゃ「もっと報酬あげろ!」「いや、びた一文払わん!」の繰り返し。まぁ、人は「いき」だけじゃ、「いき」れないってことかなぁ。ちゃんちゃん。
投稿日:2016/01/10 11:35:51