昔、ある人から口酸っぱく言われたことがある。「石津君、分相応ということを覚えておきなさい」と。調子に乗って突っ走る俺を諭してくれた言葉、今でも胸に刻まれている。

昔から高級なものを食べるとさ、「なんかお袋に申し訳ないな」ってどこかで思うんだ。それって、うちの両親は貧しかったから、物を大切にしなさい、贅沢は的だっていうことだけど、本当は「自分の身分をわきまえなさい」っていう教えなんだよね。

それに、俺は昔から喧嘩が弱いくせに、今まで散々やってきた。ちっこい男と自分でわかっていたからこそ、それがバレるのが怖くて、仮面を被って、突っ張らかって生きてきた。でも、俺ももう44歳になる。こんなおっさんになって、ようやく、裸のままの自分でいいんだなってつくづく思う。自分の身の丈を知ること、まさに足るを知ることはとても大切なことだと思う。

いや、でもそれは歳のせいにして闘うことを放棄しただけであり、ちっこい男の言い訳にしか聞こえないだろう。口では偉そうなことを言うが、怖さが全面に出てきたな。この衰えた筋肉を見れば、そんな元気もなくなるな。

憩の家みちを初めて10年、同じ業界の奴はどんどん事業を拡大している。悔しいけど社会福祉法人や医療法人に勝てるわけじゃないし、魅力ある先駆的な企業、施設に到底うちのスキルでは追いつくことはできないだろう。結局、金と権力のある連中には勝てないということを身をもって感じた。

俺達にしかできないことをやればいい。そう自分に言い聞かせてきた。

それは、こんなクソッタレ業界の奴らの言いなりになりたくないと突っ張らかってきたせいであり、結果的に、スタッフのみんなが開花できるチャンスを摘み、孤独を選択した俺の罪だと認識している。仲間に対して、本当に申し訳ないと思う。

俺はこの仕事をしていることが恥だと思っている。税金で飯を喰っていること、年寄りに綺麗事言って私腹を肥やしているみじめな男なんだと言い聞かせている。だから、常に控えめで、絶対に表に出ないようにしている。（十分出てるわって突っ込まれるかな）

福祉というのはビジネス化しては絶対にいけないという俺の持論。でも、綺麗事だけでは飯が喰えない現実的な問題がある。その中で、俺達はその整合性をボランティア活動という形で罪を償ってきた。言い訳を探してきた。

不良や不登校のガキだろうが、どんな障害だろうが関係ない。「困ったら俺のところに来いよ」、それを自分なりの限界と対話しながら模索し続けてきた。俺の目指す新しいステージ、新しい敵とは、まさに自分との闘い。それが基礎になると思う。

今度、ふじのくに型福祉サービス（居場所）として、土日に障害者や児童を預かるボランティア活動をスタートする。課題は山積だが、まず一歩を踏み出そうとしている。でも、最近、知的障害者施設に研修に行くけど、介護畑にどっぷり浸かった人間が、そんな簡単に障害者の先々まで考えた支援なんて、出来っこないというのが実感としてわかった。年寄りと障害者の支援は、真逆といってもいいぐらいだ。県の思惑はわからんでもないが、安に介護の世界でも障害者を受け入れようとする姿勢は、特に年齢の若い障害者にとってみればマイナスに働く、とっても危険なことなんだと思う。

まぁ、あいつらの考えることは置いといても、みんなが共存できるスペースを作ることは大切だとは思うので、まずは地道にやっていきたいと思う。

たしかに俺は闘うことを放棄した経営者の端くれだけど、成功者の話なんて興味がないし、人と人との繋がりは大切だと認識しつつも、時に邪魔になることも多々あるし、一匹狼の方が楽な時も多い。

自閉症の人、精神病で苦しむ人、日々介護の限界と挑む家族、俺はそうした方々との出会い、不器用ながらもベストを模索し、やがて別れる。その方が、同業者連中の自慢話を聞くより、よっぽど価値があり、自虐福祉の己らしいやり方であると信じている。

俺は自分の無能さはよくわかっている。でも、こんな馬鹿を頼ってきてくれる人がいるから、どんなリスクがあっても守ってやりたいと思う。世間から嫌われたって、テロリストと揶揄されたって、俺はその大義の為に、常に戦闘態勢でありたいと思う。

それが弱虫から抜け出せない、悲しい男の逃げ道なんだ。

先日、本屋に行くと俺の本が隅っこに、しかも縦に置いてあった。ケッ、一番目立つところに、しかも表紙を見えるように置きなおしてやったぜ。ざまぁみやがれ。

トホホ。ちっちゃい男だこと・・。