よりみち

 この“よりみち”は、家長:石津が勝手に、ウンチクを語ることで、「こんな馬鹿な男もいるんだ」と、皆さんに生きる勇気を与える為の文章を載せています。  尚、内容に関しての苦情、反論、哀れみなどはご遠慮ください。強がっているわりには、打たれ弱い性格なので・・。また「憩の家みち」とは何ら関係なく、あくまで個人的主張であることを重ねてご理解ください。

よりみち

虐待にも愛を。

川崎の老人ホームの転落事故?事件?あれは本当にひどいと思う。世間では、介護人材不足や介護職員の待遇などが背景にあるというけど、そんなことだけじゃない。営利主義に走った経営者、そしてスキルが伴わない人材。俺は前から言っているが、こんなことは想像できることであり、介護職員のレベルなんてしょせんその程度のものなんだ。一番悪いのはトップの人間であり、そいつを罰することが必要だが、そこまで責任がいくことはないだろう。何も変わらない、そして、また繰り返すだろう。

あと、虐待についても、テレビで放映されていたけど、あれもひどい話だ。絶対にあってはならないことだ。でも、俺は、虐待そのものはよくないとみんなが認識していると思うが、でも、強弱は別にしても、つい手が出てしまった。忙しくて、つい乱暴に扱ってしまったことは、おそらく介護職員であれば、何回か経験していると思う。経験はしてはなくても、それを目撃した人もいるはずだ。だから、あの報道というのは、本当に氷山の一角、あの程度の虐待と思われるケースはどこでもあるということを、一般の人は認識すべきだと思う。

俺も昔、思いっきり利用者をひっぱたいたことがある。詳しくは著書「福祉馬鹿」に書いてある通りだ。でも、それ以外でも、何回か虐待?と思われても仕方がないこともあるだろう。ある利用者が介助するだけでも俺を殴る。蹴る。俺はつい条件反射で殴り返しちゃう。唾をさんざん吐かれて、顔殴られて、「それでもお客様だから」なんて、これっぽっちも言いたくない。「てめえ、ふざけんなこの野郎」と怒鳴りつける。もちろん、おもいっきり殴ったりはしないけど、頭を叩いたり、胸ぐらをつかむことは日常茶飯事だ。

俺達は利用者との対等な立場を目指している。無理だと思うけど、そうしないと真のサービス業とは言えないと思う。こっちだって真剣なんだ、たとえ認知症であろうが、やっていいことと悪いことぐらいの区別はつくと思うし、理解しなくても俺はそれは悪いこととして怒鳴りつける。それはスタッフも守るためでもある。そうやって切磋琢磨して、俺達も悩んで苦労して、そうした繰り返しこそ、その人が困った時に力になれる、情が生まれてくると俺は思っている。

でもあれだよな、俺の様子を隠し撮りかなんかしてもらい、それを一部切り取られて、マスコミに流れたら、一発で俺の首は飛ぶだろうな。でもしょうがないよ、小さいころから「やられたらやりかえせ」って教わって育ったんだもん。ただ断っておくが、俺はそれなりの筋道を立てて、段取りをしているので、誰に何を言われても平気だけどな。

俺は介護職員の質の低下を常に問題視している。こんなくそったれの業界、やっぱり俺達自身の意識を変えないといけない。資格や経験じゃなく、人間的に強くなければ絶対にだめだと諭している。それを乗り越えないと、本当に大変な人を救うことなんてできやしないと思うからだ。

でも、介護職員も大変だとは思うよ。同情するわけじゃないけど、その気持ちもわかる。俺も以前、女性利用者に対して乱暴に寝かしたことがある。昼間、ここのデイで仕事をして、夜は、ボランティアとしてその人と一緒に数日間を過ごした。さすがに寝不足と過労で、数日経った明け方、認知症で徘徊があり、まったく寝てくれない。昼間寝ないようにレクをやって、疲れているはずなんだけど、全く寝てくれない。「もういい加減にしろよ」「何時だと思っているんだ」と怒鳴り、やや強引に、投げるように寝かしたことがあった。

「あんたひどことするね」、そう睨み付ける利用者の目は今でも忘れない。そして、乱暴に扱ってしまったその感触、申し訳ないという良心に反した罪。今でも思い出すことがある。本当に心身共に体力の限界だった、ボロボロだった、乱暴したという意識ではなく、ただ、その場、頼むから寝てくれ、それだけだった。でも、結果的には、それは虐待に他ならない。もう10年前の話とはいえ、消えない懺悔の思いは常にある。

でも、その時の俺の極限状態こそ、初めて「家族の苦悩」を理解できた瞬間なんだと感じた。

俺はそうした反省から、介護の仕事はそうした極限状態までいっては絶対にダメだということ。でも、それで自分に甘えてはいけない。常にそのぎりぎりのマックス状態を目指して、そこのボーダーラインを超えないように、維持継続することが大切だと感じた。

俺はある特定の利用者に対しては、諸事情もあり、頭をこずくことはある。でも、それは、あくまで良識の範囲内でやっていることであり、それを虐待として捉えられるのならばそれは残念で仕方ない。今回の事件がきっかけに、何をするにもそのように判断されるのが、とても残念であるし、介護を楽しむ魅力を損ねている原因にもなっていると思う。俺なんて、風貌からして誤解されやすいから、いるだけでも「年寄りが可哀想」と思われちゃうもんな。

今のこの業界の連中、どいつもこいつも人を殴ったことのない真面目な坊ちゃん、ネェちゃんばかっかりだから、どこまでやったらダメかという判断もできないんだよな。上からいいように使われ、過重労働もたしかに影響もあるだろう。そして、我慢ができない連中、でもそのはけ口が上に行くのでなく、つい弱い人に、もっとも向かってはいけない人に当たってしまう。本当に悪循環の連鎖だと思うな。

俺は少しでも、介護業界のレベルが上がってほしいと願う。それは資格とか専門とかじゃない、理屈ばっかりの四角四面的なものではなく、もっと揉まれて人間力を高めて、失敗をして学び、直観的に本質を見抜き、その中で課題ある利用者の解決に向けて努力すべきだと思う。どん底まで落ちて這い上がる力こそ本物であり、そんな悲しみを潜り抜けた者こそ、業界の救世主となると信じている。介護の質の向上はもちろんだけど、何よりそうした現場の職員に足りないのは「愛」なんだ。一番肝心なそれがないことが大きな問題だと思う。

そして何より、それをわかっておきながら、数字遊びで私腹を肥やしているトップの連中がおり、そいつらは何食わぬ顔で、今も拡大し続けていることが、大きな問題だと思う。いつも困るのは現場の連中だ。現場愛のない経営者連中がのさぼっている現実が俺は許せない。

うちのデイも、たしかに大変な人が多く、本当にうちのスタッフも利用者からの過酷な暴力に耐えてきたんだ。でも、それを我慢してきたからこそ、「みちさんなら何とかしてくれる」「困った時はみちさんで」と、ご家族やケアマネさんの信頼を多少なりとも得ることができたのだと思う。本当にありがたい話だと思う。

でもよ、うちのデイはダメだな。だってトップの俺が、「やられたらやりかえせ」って教えてる位だから、それは問題あるわな。やっぱりこれからは、「お客様ですから耐えます」「どんな暴力でも有難く」と言わないといけないな。
おいおい、そんなこと言ったら、仕返しが怖いわ。間違いなく倍返しだ。こわっ。

投稿日:2015/09/24 15:09:13