よりみち

 この“よりみち”は、家長:石津が勝手に、ウンチクを語ることで、「こんな馬鹿な男もいるんだ」と、皆さんに生きる勇気を与える為の文章を載せています。  尚、内容に関しての苦情、反論、哀れみなどはご遠慮ください。強がっているわりには、打たれ弱い性格なので・・。また「憩の家みち」とは何ら関係なく、あくまで個人的主張であることを重ねてご理解ください。

よりみち

ツバメの死に涙する

よく、燕が巣を作る家って栄えるっていう。本当に、ここにきて10年以上が経つけど、それが俺の念願だった。夢だった。ちっこい男と言われるかもしれないが、ハンパな都会育ちの俺は、そんな光景に憧れがあった。それが現実になるあと寸前のところで、俺は燕をこの手で殺してしまい、結局は自らのおせっかいのおかげで、台無しになってしまった。

そもそも、鳥が巣を作ることについては、色々な思い入れがある。今から10年前だったか、玄関の入口の奥の方に、すずめが巣を作っていた。当初は燕かと喜んでいたけど、それが目のゆき届かないところにあり、中を確認しようにもできず、親すずめがよく行き来していた。ヒナの鳴き声がよく聞こえていたが、俺は蛇に食べられるのか、とても心配していた。

ちょうどその頃、実家のお袋に、振り込め詐欺からの電話があった。文字通り、俺になりすました連絡で、騙されやすいお袋は、よほど心配して、お金を振り込もうとした。でも、そこで、「それはそうと、あんたすずめの巣はどうしたの?」って話をしたら、詐欺師は、返す言葉がなく、電話を切った。その後、すぐにお袋から電話があって、結局、騙されずに済んだ。燕が助けてくれたんだ。

そして2年前に、ようやく燕が巣を作った。その前に、出来る環境を整えたが、それ以外の玄関のすみにようやくできた。ヒナも4羽生まれて、俺達もその観察がとても楽しかった。でも、結局は蛇に全て食べられてしまった。その時、お父さん鳥とお母さん鳥は、何度も何度も見にきては、しばらくそこから離れなかった。俺達は、その光景を見ながら、涙をながしたことがあった。

そして、今回。また燕の巣ができた。俺は同じ失敗はさせまいと、蛇やカラスから守る為に、色々な備品を買って準備した。ところが、蛇取りの為においた粘着テープに、燕の羽が引っかかってしまい、それが取れずに、とても苦しんでした。俺達は、すぐに羽についた粘着物を、小麦粉や油などで丹念に取り除いたが、もう羽は折れてしまい、飛び立つことはできなくなった。

なんか可哀想で、ここまで準備したのに、なんでだよって、本当に幸せ者かもしれないけど、かなりへこんだ。自然のままがいいとはわかってはいた。良かれと思ってやったことが全て裏目に出てしまった。俺は、自らのおせっかいを後悔し、その夜は酒飲んで泣けたな。

まぁ、酒のつまみは焼き鳥だったけど。

やっぱり渡り鳥だから、自然がいいんだよな。ちょっと結果にコミットしすぎたのかもな。それからその燕の為に鳥かごを買い、餌を与えても食べることはなかった。注射器で餌を与えても食べなかった。庭からミミズを取ってきても、水もまったく飲まない。野生だもん、当たり前だよな。お風呂場では水浴びを少ししたが、その当時は元気はあった。きっと逃げたかっただけだろうけどな。

こちらで飼って3日目。ようやく羽が乾燥しはじめ、もしかしたら?とも期待をした。でも、その日の午前中に死んでいた。

その燕の死は、うちのスタッフもショックだった。当初はさくらの木の下に埋めてあげとうと思ったが、あるスタッフからはく製にしたらどうかという提案があり、そのように依頼した。右の羽が折れている、可哀想な燕だが、いつまでも俺達の心に残っている。それに、俺は罪滅ぼしの為にも、何かしたかったというのもあったんだ。

この数日間、燕に俺は翻弄されて、仕事もまったく手が付かなかった。指にのる燕の目を見ながら、ひとりでしゃべりかけていた。どんだけ病んでいるのかと世間からすれば思うかもしれないけど、本当に自分の罪に後悔してもしきれなかった。

俺がその燕を殺してしまったことは変わりない。あと2週間すれば、はく製として復活することができる。右の羽は大きく削れて、格好は悪いけど、みんなで一生懸命洗ったり、何か食べないか、どうして飼おうか、外にいたら食べられるから柵を作ろうかなど、色々と悩んだことは、きっと俺たちにとっては、大きな財産になると思う。

ちょっと、俺の夢だったものが、少し後味が悪い結果となってしまったのは残念で仕方がないな。

でも、笑っちゃった。その翌日には、残されたもう1匹の燕の野郎、早速新しい番いを連れてきて、一緒に巣にこもっていやがった。まぁ、嬉しいけど、ちょっと複雑な思いだよな。鳥の世界も残酷だぜ。

そこでうちのスタッフが一言、「やっぱり家主に似るですね」ってよ。コラコラ。
投稿日:2015/05/21 15:35:58