昨日、うちの男性スタッフがこんな話をしていた。「自分の母親にお礼を言いました。『生んでくれてありがとう』って、伝えましたよ」。

すごいな。本当に偉いと思う。お母さんも、自分の息子にそんなこと言われたら、涙がでるほどうれしいだろうな。「生んでくれてありがとう」なんて、思ってもなかなか口に出せないものだもんね。本当に素晴らしい親子愛だと思って感動した。

昔は、「なんで俺を生んだんだ。馬鹿野郎」なんて言ったもんだっけ。でも、二言目には、「お前は橋の下で拾ってきた」ってよく言われたもんだっけな。

もし、俺が改めて、「お袋、生んでくれてありがとうよ」って言ったら、「バカ野郎。お前みたいな馬鹿、生んだ覚えないわ」って一蹴されてよしだろうな。まぁ、うちの親に遺産が何億ってあれば、毎日のようにひざまづいてよ、「生んでくれてありがとう」「ママの子供で良かったよ」ってお世辞で言うけど、一銭もないから言っても無駄だな。

でも、基本的に俺はマザコン、ファザコンだから。そうした思いはある。カーネーションもお袋に買ってあげたこともたくさんあるけど、最近はまったくないな。でも、その代わりに、別の人には、母の日にカーネーションを今でも贈っている。毎年決まった方数名に、プレゼントしているんだ。その人達は、子どもがいなかったり、亡くなったり、そういう悲しい過去を持っている人が多い。俺みたいな馬鹿な息子から花もらっても嬉しくないだろうけど、気持ちの問題だから、それは続けているんだ。

うちのお袋はいけばなの教授をやっていたから、常に家には花がたくさんあった。「花を貰って、嫌な思いをする人は誰もいない」、昔からよく言っていた。だから、よく俺は色々な人に花をあげる。俺みたいな汚れた顔の人間が、綺麗な花を贈るって臭いけど、みんな本当に喜んでくれる。

俺のおふくろは厳しかったけど、本当に優しかった。小さい時は、いつもお袋のそばについて回った。遠くへ行くときは、涙ながらに走って追いかけて行った。お袋の手で抱かれている時は一番の幸せだった。

それが大人になり、お袋も歳をとった。抱かれるより、こっちが抱きながら介護しざるを得ない部分も、これからは増えるかもしれん。大人になり、日々の時の流れに、ついその母親の存在というものが薄れてくることがある。もちろん、胸には深く刻まれているけど、離れて暮らしており、毎日の生活に追われて、つい母の愛というのを忘れてしまう時があるのが現実だ。

「おかあさん！」って泣いて帰ったあの頃を、今でもよく思い出す。「おかあさん」って帰れば、まぶしい光の中で、笑顔で「おかえり」と言ってくれた。いえば、何でも助けてくれた。抱いてくれた。キスしてくれた。

「もう、やめろよ」って言いながら、実は照れながらうれしかったことをよく思い出す。

うちは本当に恵まれていた。金はなかったけど、家族の愛に支えられていたことは本当にありがたいことだと思う。それに気がづくのが遅すぎて、散々泣かし続けてきたから、今は本当に申し訳ない思いが常にある。

遅すぎた親孝行を、直接でないにせよ、やっていかなければいけない責任はある。

俺の知り合いにも、母を疎む人間が、本当に多い。でも、そいつらも心では理解しているんだよね。いずれは対峙しなければいけないことも、感謝しなければいけないということも。そして、母には絶対に勝てないということも認識しているんだ。ただ、それが行動に出ない、それだけなんだよね。

そうした意味でも、この母の日って、本当にいい日だと思う。ふっと、我に返らせてくれる。俺は、「生んでくれてありがとう」なんて、一生言えないだろう。そこまで大人になってないし、そんな立派な大人になりたくもない。

いつもお袋は俺を心配していた。「お前は馬鹿だからいつも心配で仕方ない」という。振り込み詐欺にも合いそうになることもあったっけ。でも、それ位の心地よい心配があった方がいいんだろうな。

俺が「生んでくれてありがとう」なんていうときは、本当の別れの時だろうな。

母の恩は深く感じている。それが福祉の原点だと思うし、それを、俺は自分の親ではなく、ここにいる人達の為に、その恩返しをしているだけなんだよね。愛情を受けて育ってきたからこそ、それを多くの人に与える責務が俺にはあるんだと思う。お袋も、自分に返ってくる感謝より、よそに与える感謝の方を求めていると思う。日本の母親って、そこが美しいと思う。

でも、「生んでくれてありがとう」。本当にいい言葉だな。

ちぇっ。馬鹿野郎。そんなお利口さんみてえなこと言えっかよ。もし、そんなこと言ったら、「そんなにありがとうっていうなら、感謝を形に表しなさい」って、金要求されそうで怖いわ。

母の恩は、月光の下、思うことしか俺にはできんな。

母の日か・・。みんなそれぞれが、母を想う、本当に素晴らしい祝日だと思う。

まぁ、動けなくても、ボケてもいいから、長生きせえょ。